コラム

当面の生活費を相手からもらうことができますか?

【ご質問】

娘が小学校に入学する頃から、娘の教育をめぐって夫と意見が対立するようになり、ここ最近は、言い争いが絶えない毎日でした。

2か月前、夫から激しくなじられ、いたたまれなくなった私は、8歳の娘を連れて別居し、現在は、アパートを借りて娘と二人で暮らしています。

夫は、「お前が勝手に出て行ったんだから生活費を支払う必要はない。夫婦は同居義務がある。生活費が欲しいなら家に帰ってくればいい」と言って、生活費を支払ってくれません。

私もパートで働いているものの、生活は苦しく、貯金も底をつきそうです。

今後、夫とは離婚しようと思っているのですが、離婚するまでの間、夫から生活費をもらうことはできないのでしょうか。また、もらえるとすれば、いくらぐらいになるのでしょうか。

【ご回答】

婚姻費用とは それは本当に大変ですね。これから娘さんも大きくなりますし、当面の生活費を確保することは何よりも優先しなければなりません。

さて、結論からいいますと、あなたのケースは、夫に対し、当面の生活費を請求することができると考えられます。

法律上、親族はお互いに扶養する義務がありますが、夫婦間やまだ自立していない子供に対しては、生活保持義務といって、普通の親族間よりもさらに高度の義務を負うとされています。具体的には、収入の多い配偶者は、収入の少ない配偶者に対し、自分の同程度の生活を保障する義務があるとされているのです。

このように、婚姻関係にある夫婦において、収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者(及び子供)に対して支払われる扶養料のことは、婚姻費用と呼ばれています。

なお、あなたの夫は、「お前が勝手に出て行ったんだから生活費を支払う必要はない」と主張しているようですが、それは誤りです。

確かに、夫婦に同居義務があるのは事実ですが、あなたのケースでは、喧嘩が絶えず、夫から強くなじられた結果、別居を余儀なくされたのですから、直ちに同居義務違反を問われるとは思われません。

例えば、妻が夫以外の男性と不倫をして、一方的に別居に及んだような場合は、妻の生活費部分について、権利の濫用として、婚姻費用の請求が認められないことがあり得ますが、あなたのケースでは、そのような事情がありませんから、婚姻費用は請求可能と考えられます。

 

婚姻費用の発生時期 婚姻費用の請求は、離婚をしたくないときはもちろんのこと、離婚を目指した話合いや調停等が行われている場合でも、離婚成立までの生活費の支払のために行うことができます。

このような婚姻費用は、それでは、一体、いつから発生するのでしょうか。現在の実務では、一方配偶者が他方の配偶者に「生活費を支払ってほしい」と言って請求した時点から支払う義務が発生するとされており、それより以前の分については、認めてもらえないことが多いと言えます。

 そのため、婚姻費用の請求は、「請求した」ということや請求した日時が残るように、文書、メール、LINEなどを利用して行い、話合いが難しい場合は早めに弁護士に相談しましょう。

 

婚姻費用の額 婚姻費用は、前記のとおり、収入の多い配偶者が、収入の少ない配偶者に対し、自分の同程度の生活を保障するためのものですから、厳密にいうと、~という算定方式がとられます。しかし、これはかなり複雑な計算が必要ですので、実務では最高裁判所から出されている養育費・婚姻費用の算定表が広く利用されています。

 >算定表はこちら

この算定表は、配偶者双方の収入と子供の人数・年齢を考慮要素として、素人でも簡易・迅速に婚姻費用を算定したもので、いわば早見表のようなものです。 ご質問のケースでは(表11)子1人(子0~14歳)を利用し、義務者(夫)の収入と権利者(妻)の収入をあてはめて、算出します。

もっとも、個別具体的な事情はそれぞれの夫婦で異なりますから、例えば、子供が私立学校や大学に行っている場合などは、算定表の金額にさらに加算できる場合があります。この辺りは、弁護士であっても、離婚に詳しくない人は、個別事情を十分考慮せず、安易に算定表に当てはめるだけといったこともありますので、離婚問題に精通した弁護士に相談・依頼することが重要です。

 

 婚姻費用の決定方法 では、婚姻費用を決める手続として、どのようなものがあるでしょうか。

当事者間で合意ができれば、それに越したことはなく、婚姻費用を自由に決めることが可能です。ただ、別居している夫婦の間では、何らかのいさかいがあるのが通常ですから、当事者間の協議で決めるのが困難な場合が多いのではないでしょうか。

当事者間で婚姻費用を決定することができない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立て、裁判所での協議をすることになります。

そして、調停によっても合意ができない場合には、調停手続は審判手続に移行し、裁判所が審判で決定することになります。

 

 まとめ 婚姻費用は、別居後、当面の生活を維持するために必要不可欠なものですし、仮に将来的に離婚をするにしても、安心して離婚手続を進め、有利な離婚条件を勝ち取るためにも、非常に重要です。

 しかも、婚姻費用は一旦金額を決めて合意が成立すると変更が難しいので、安易に当事者間で合意すると、取り返しのつかないことになることもあります。

婚姻費用の協議や合意する前に、まずは離婚に精通した弁護士に相談することが極めて重要です。